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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(あ)1875号 決定 1977年3月25日

本店の所在地

名古屋市東区主税町二丁目八番地

愛章住宅株式会社

右代表者代表取締役

前川博俊

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五一年一〇月四日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人湯木邦男の上告趣意のうち、憲法の違反をいう点は、原審で主張及び判断を経ていないものであり、その余は、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 団藤重光)

○昭和五一年(あ)第一八七五号

被告人 愛章住宅株式会社

右代表者代表取締役 前川博俊

弁護人湯木邦男の上告趣意(昭和五一年一二月二五日付)

第一点 原判決は、刑事罰の名をかりて、実質的な租税を重複的に徴収することを是認するもので、これは憲法第三〇条、同八四条の租税法律主義ならびに憲法第一四条の法の下の平等に反するものであるから破棄されるべきである。

(一) 即ち、被告人会社は代表者前川博俊個人の行為によつて、法人税をほ脱したことにより、重加算税金六、五三五、五〇〇円を課せられた(記録一四〇九丁)にも拘らず、第一審裁判所は被告人会社に対し罰金七〇〇万円に処し、原判決も右判決を維持した。

(二) なるほど、重加算税の外に刑罰として罰金刑を課すことは憲法違反にならないとするのは最高裁の一貫した判例ではあるが、その根拠とするところは、重加算税は行政上の行為であり、刑罰としてこれを科するものではない。申告納税の実を挙げるために本来の租税に附加して租税の形式により賦課せられるものであり、これを課することが申告納税を怠つたものに対し制裁的意義を有することは否定しえないが、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨性質が異なるものとしているのである。

(三) 確かに、最高判例が言うように、行為者の反社会性に対する制裁として刑罰を科することは行政上の措置とは別であるということは理解できるが、それは、行為者が自然人のように犯罪能力を有し、刑事責任能力を有するものにのみ言えることではあるまいか。

(四) 通説、判例は法人の犯罪能力を否定し法人処罰の刑罰的性質を否定する。両罰規定を是認する根拠としては、現実の違反行為者の犯罪に基いて、政策上法人を処罰するに過ぎないと説明する。自然人に対して刑事責任を科する意味は理解できるが、法人に対し、重加算税とは異つた趣旨、理由で罰金を科する根拠は出て来ない。構成員たる自然人との切り離し抽象的に把握される法人には重加算税も罰金も国家に対し金銭の支払を命じられた必要的支出として把握されるだけで、それ以上の意味はない。法人に対し二重に金銭の支払を命じることになつて法人の構成員たる自然人に対する制裁を目的とするならば、代表者は別途刑事処分を受けているのであるから、憲法第三六条に違反することになる。

結局、法人に重加算税とは別に刑罰として罰金を科することは実質的な租税を自由裁量的な罰金という名目で支払を命じるものというべく、本来租税が法律により課税標準、税率を定め、国民の義務を明確にしている憲法第三〇条に違反するものである。

第二点 原判決は刑の量定が甚しく重く不当である。

即ち、前第一点で述べたように被告人会社は既に重加算税を課されている上に刑罰として罰金を科されるものであつて、二重の経済的負担に苦しんでいるものである。

(一) 被告人会社が「本件法人税をほ脱するに至つたのは、当初、被告人会社が、開店景気とか正月景気などに左右されない安定した所得を目指したこと、および既に開店していた同一地域内の他のボーリング場業者らとの入場税ランクの均衡を配慮せざるを得なかつたということなどから、被告人会社も入場税のランク下げをする必要にせまられ、このことに端を発して、売上げ金を除外したが、そのまま何ら他の方策をとらなかつたため、法人税申告期に至つて、右除外金の扱いに苦慮し、終局的にやむをえず、所得申告をしなかつたというところにあるもので事前に右除外金を所得に戻し、売上げの平均化をはかる等の方策をとつていれば何ら法人税のほ脱をする必要もなかつたものであつて、換言すれば、その動機において同情すべきものがあつたこと」

(二) 「本件によつて、代表者前川博俊を始め、被告人会社の幹部らが逮捕され、新聞、テレビなどで大々的に報道されたため、被告人会社のみではなく、関連会社全ての社会的信用、経済的信用は一挙に失墜し、特に経済界が不景気に向おうとしている中で、被告人会社及び関連会社は、第一サンボウル、第二サンボウル、本社ビルの建設、沖繩における宅地造成など事業の拡大をはかつていた時期だけに、金融機関の融資が全部ストツブするという事態を招き、被告人会社は勿論、関連会社も一挙に倒産へ追い込まれてしまつたこと」

(三) 「資本主義を前提として、経済人の積極的な経済活動を刺激し、期待し、その利益を国家に還元させるという本来の税制の在り方に鑑みれば、およそ程遠い過酷な結果を招来したものというべきであつて、仮に法人に対する罰金が制裁として応報的目的を有しているとしても、本件では国家権力によつて被告人会社はその経済的活動の息の根を止められ、その社会的信用は泥にまみれてしまつているのであつてその刑罰の目的とする応報的効果はあまりにも十分すぎるほどその目的を達したものである。」

(四) 「現在においては、被告人会社は代表者前川博俊の外、社員一名という人的組織となつているものであり、全資産は債権者及び税務署のために、余すところなく担保に供せられていて、罰金額の支払能力は皆無に近い状態になつているものである。

以上の諸点をあわせ考えるならば原判決の量刑が不当に重いことは明らかである。

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